10年ほど前、中古絵本のお店を始めようと場所探しをしていた道端友子さんが、三角山を真正面に望むこの地に立ったとき「そうだ、店の名前は『花さき山』にしよう」と閃いたそうです。
―「やさしいことをひとつするとひとつ花が咲く。足元に咲いている赤い花は、お前の行いが咲かせた花だ」というやまんばの言葉が、少女の心に清々しくひろがった―
大人の入り口で絵本を改めて手に取るきっかけとなったのがこの『花さき山』という絵本でした。「世の中にこの心が広がったら変わるだろうなぁ」と、幼い頃とは違う視点で味わうことができました。身近な言葉と絵だからこそ年齢を問わずイマジネーションが広がる、それも絵本の魅力だと道端さんはいいます。「背表紙は1センチ足らずですけど、中を開けばとても大きな世界がある。その体験をお子さんやお母さんに味わってほしいんです」。自宅に併設した店内には、絵本の他に雑貨小物も並んでいます。「自分がいいなあと思ったものを紹介したい。絵本好きの裾野を広げたい。その気持ちだけでお店をやっているんです。経営的にはあまり成り立ってません(笑)」。
ある日、店を訪ねてきた若い女性が、小学生の頃に教科書で読んだお話を探していました。でも覚えているのは大まかなあらすじだけ。心当たりがなかった道端さんは、絵本好きの知人たちにも捜索依頼の手紙を書きました。ほどなくして、お話の載った教科書が札幌教育大の図書館に保管されていると知らされます。
「教えてあげたらとても喜んで、後日お店にもコピーを持ってきてくれたんですよ」。
そんな「ひとつ花が咲いた」ような出来事もありました。ところで、それはどんなお話だったんですか?
「足が悪くて外に出かけられないおばあちゃんのために、少女がお日様の光をエプロンに包んで持って帰えることを思いつくんです。でも、帰ってエプロンを開くと、そこに光はなくなっていて…。おばあちゃんはその気持ちがうれしくて、こう言うんです。『お日様はそのおめめの中に残っているよ』って」。
幼い頃に心の琴線に触れた、大人になっても忘れられない絵本は誰にでもあるものです。もしかしたらあなたも「花さき山」で「思い出の一冊」と再会できるかもしれません。
TEXT / MASANORI HORITA
PHOTO / SHIGEO TAMURA