ケーキほど、幸せな場面の演出にふさわしい食べ物はありません。その幸せな瞬間を、より印象的なものにしてくれるケーキがあります。
「ある有名バンドがライブで札幌に来た時、『メンバーの誕生日なのでサプライズケーキを』という注文が来て、原寸大ギターのケーキを作ったこともあります」。そう話すのはオーナーの藤田小夜子さん。
小さなケーキ屋さんCanvas Cakesは、オーダーメイドケーキの専門店。誕生日や結婚式などお祝いの席には欠かせないケーキを、ひとつひとつオリジナルのデザインで提供しています。
ケーキのデザインや似顔絵などを担当する藤田さんは、札幌市立高専(現・札幌市立大学)のインダストリアルデザイン科卒業後、アートディレクターとして広告代理店に約6年勤めていました。広告の仕事から一転、ケーキ屋さんのオーナーになったのは、「店をまるごとブランディングするような店舗プロデュースに興味があったのと、クライアントを介しての広告ではなく、消費者の顔を見て直接届けられる仕事をしたかったんです。じゃあいっそ自分でお店を作っちゃおうかなと」。
パティスリーの藤原博子さんは、市内のスイーツ店で修行を積んでいた頃、「洋書で見たカラフルでポップなアメリカのケーキに魅せられて」2 0 0 8 年ニューヨークに渡り、本場のケーキスタジオで3Dケーキを学びました。「見た目だけじゃなく、食べても美味しいケーキ」がモットーです。
藤原さんが出産を経て仕事に復帰するタイミングだったこともあり、2人の得意分野を生かして「カワイイ× おいしいサプライズ」をコンセプトとするCanvas Cakesが誕生しました。「私自身も彼女の作るケーキのファンだったんです」と藤田さん。数ヶ月後には小向知菜津さんも加わって3 人体制に。開店後すぐに口コミで注文が集まり、全国からのネット注文も含めて、多い時には月に二百個近くのオーダーが入るとか。山の手で出会った小さなケーキ屋さんは、特別なハレの日の演出に、オリジナルケーキで「うれしい驚き」をプラスしてくれるお店でした。
「依頼していただく方の『この人のために』という思いを1 2 0 %に増幅させて届ける。それが私たちの役目であり、喜びなんです」。
TEXT / 堀田 正紀
PHOTO / 田村 茂雄