レモンイエローの外観がひときわ目をひく「fianco a fianco」。山の手にある、気軽に本格的なイタリアンが味わえるお店です。
「お客様はチーズが苦手なので、別添えにして」。
オーナー兼カメリエーレ(給仕)の中井豊さんが厨房に指示を伝えます。頭の中に記憶されたお客様それぞれの好みは、時に微妙な塩加減にまで及ぶそう。
中井さんは、サービスとしての第一歩を札幌の一流ホテルからスタート。そこで求められたのは特別な接客をすることではなく「ただスマートに料理を運ぶこと」でした。ところが次に移ったイタリアンの店ではそのスタイルが通用しません。「自分だけが浮いている」と悩みます。「格好じゃなく、いかにお客様に満足してもらえるか。だからもっと自由に、自分らしくやってごらん」。先輩のそんな助言が転機となって、徐々にサービスの楽しさと奥の深さを感じるようになったといいます。
日本の料理店に比べ、イタリアのレストランでは給仕の地位がとても高く、店をもり立てるという重要な役割も担っています。「お客様にここでの時間を楽しんで帰ってもらいたい。そのために好みの味や心地よい距離感で対応して、信頼関係を築くことが大切だと考えています」。
厨房を任されているのは、小さな頃から料理人に憧れていたというシェフの西村佳菜さん。高校時代、
母と訪れたレストランで、「料理にも感動したんですが、ふと厨房を見ると女性が鍋を振っていて、その姿が『カッコいい』って思って」頼み込んでアルバイトさせてもらうことになったその店に、中井さんが勤めていたのが今に繋がる縁になりました。「研究熱心で、注文にも柔軟に対応してくれる頼れるシェフ」と中井さんも信頼を寄せています。この店は、小さなお子さま連れも大歓迎。子供用イスの用意はもちろん、片側をベンチシートにしているのも、お子さまを寝かせることもできるようにという配慮から。
「カジュアルな店でありたいので、気軽にどなたにもここでの時間を楽しんでほしい」。
店名「fianco a fianco」は「並んで」という意味のイタリア語。「お客様に寄り添う」という店のコンセプトが込められています。
「シェフと私とで、一緒に店を作っていきたいという思いもあって」と中井さん。二人のコンビネーションが織りなすおもてなしが、素敵なひとときに優しく寄り添ってくれます。
TEXT / 堀田 正紀
PHOTO / 田村 茂雄