「家具は目立たなくていい」。
そう話すのはオーダー家具、オリジナル家具の製造販売を行う「澪工房」代表の南勝重さん。「あくまで主役は人。家具は出しゃばらず、控え目でいい。でも素材が良ければ、シンプルでもじんわりと自己顕示するものですよ」。昭和27年、道東の興部町生まれ。大学を卒業後、札幌の百貨店の家具売り場を皮切りに、問屋、メーカーなど家具業界のひと通りを経験します。西武百貨店、パルコが時代をリードした70年代後半には、東京でそのムーブメントの渦中に身を置き、「これからは家具もアパレル同様、デザインの時代が到来する」と肌で感じたと言います。
47歳の時、当時勤めていた会社が廃業したのを機に、札幌に戻り「澪工房」を起こします。全て自らデザインすることで、徐々に、素材の表情を活かしたシンプルなフォルムの「澪工房カラー」を確立させてきました。お客様と対面して家具を一緒に作っていくというスタイルは、それまでの経験値も活かされて、特に肌に合うといいます。2011年、現在地にショールームを移転。通りすがりでも気軽に入って来てもらおうと、小物アイテムのデザインも始めます。「家具はディテールの世界で考え、小物は原寸の世界で考える。その振り幅は大きいけれど、例えばテーブルをベースとしてその上で皿や器が踊ってくれる。そんな生活の場面全体を自分のデザインでコーディネートできるのはとても楽しい」。
今、高岡市にある銅器着色工房との縁が繋がり、製品・素材のコラボレーションによる小物「北前船シリーズ」も次々に生まれています。「伝統的なクラフトのもつ潜在的なパワーは凄い。それを身近に見る機会があると、小物で世界にも出て行ける、世界はそんなに遠いところではないと思えてワクワクする」と語る南さん。今の仕事を楽しむ若々しい感性と、その世界をどんどん広げていこうとする穏やかな、しかし溢れるようなエネルギーが伝わってきます。
社名にある「澪」は、お客様のために「身を尽くす」という意味を込めたと言います。「昔のような家具屋でありたいというのが根本にあって。お客さんから注文を貰って、職人がその人のためにデザインして作る。直しもする。そんな、お互いに顔の見える関係の中で家具を作っていきたいなぁ」。家具は安い買い物ではありません。だからこそ、暮らしの傍らに永く寄り添ってくれる、飽きのこないものを選びたい。暮らしに上質を求める方は一度、「澪工房」を訪ねてみてはいかがですか?
TEXT / 堀田 正紀
PHOTO / 田村 茂雄